
Local TTSには、ニューラル音声モデルが1つではなく2つ搭載されています。アメリカ英語・イギリス英語の音声はKokoro-82Mが、31言語対応の多言語音声はSupertonic 3が担当します。どちらもiPhoneまたはiPad上で完全に動作します。
モデルを1つに絞れば、アプリはもっと小さくシンプルになります。それでも2つ積むのは、公開されているベンチマークがはっきりした答えを示しているからです。自然さ、読み上げ精度、速度、対応言語数のすべてで勝てる小型オンデバイスモデルは、現時点で存在しません。 この2つはそれぞれ別の分野で強く、組み合わせることで、Local TTSは各モデルを最も得意な場面だけに使えます。
この記事では、その判断の根拠となった公式評価結果を紹介します。モデルの公開元が何を測定したのか、第三者のテストで何がわかったのか、そしてそれが実際に耳にする読み上げにどうつながるのかを見ていきます。
出典とカバー画像: カバーには、SupertonicリポジトリにあるSupertone公式の読み上げ精度チャートを変更せず使用しています。Kokoroの数値は公式のhexgrad/Kokoro-82Mモデルカード、Supertonicの数値はSupertone公式リポジトリとモデルカード、同一CPUでの直接対決は第三者による独立ベンチマークに基づきます。いずれも公開元が自身のハードウェアで測定した数値であり、iPhone上での測定ではありません。
一言でいうと
英語の自然さは人間の評価でKokoro-82Mが上位、CPUでの速度と31言語対応はSupertonic 3が優位です。そのためLocal TTSは、英語をKokoroに、多言語をSupertonic 3に振り分け、すべてをデバイス上で処理します。
音声合成の性能はどう測るのか
読み上げアプリにとって重要な指標は4つあります。数字を見る前に、それぞれの意味を押さえておきましょう。
- 自然さは人間が判定します。最も知られている公開テストはブラインド形式のアリーナです。リスナーは匿名の音声クリップを2つ聴き比べ、より自然なほうに投票します。その積み重ねからElo方式(チェスの強さ評価と同じ仕組み)のランキングが作られるため、宣伝文句では順位を動かせません。
- 読み上げ精度は、与えられた文章をそのまま話せたか、つまり読み飛ばし・繰り返し・発音の崩れがないかを測ります。生成音声を機械で文字起こしして元の文章と照合し、単語誤り率(WER)または文字誤り率(CER)として採点します。低いほど優秀です。
- 速度はリアルタイム係数(RTF)で表します。音声の長さに対する生成時間の割合で、RTFが0.3なら1秒分の音声を0.3秒で生成できる、つまり実時間の約3.3倍の速さです。低いほど高速です。
- サイズはパラメータ数、ダウンロード容量、メモリ使用量を指します。スマートフォンのアプリに収まるモデルと、サーバーGPUが必要なモデルを分ける要素です。
クラウド音声はデータセンターの性能で4つすべてを追求できますが、オンデバイスモデルには取捨選択が必要です。そこで2つのモデルの個性が分かれます。
ベンチマークが示すKokoro-82Mの実力
Kokoro-82Mの代表的な実績は、人間の評価によるランキングです。v1.0公開前の公式モデルカードには、Kokoro v0.19がTTS Spaces Arenaで1位になったと記録されています。TTS Spaces ArenaはHugging Face上のブラインド聴取アリーナで、Kokoroは数百時間分の音声だけで学習しながら、XTTS v2(4億6,700万パラメータ)やMetaVoice(12億パラメータ)といった何倍も大きなモデルを上回るEloを獲得しました。
これは立ち止まって考える価値のある結果です。モデル名もパラメータ数も見えないテストで、8,200万パラメータのモデルが10億パラメータ級のシステムより好まれたのです。計算量あたりの英語の自然さでは、Kokoroが小型モデルの基準を作ったといえます。
| 項目 | Kokoro-82M v1.0 |
|---|---|
| パラメータ | 8,200万 |
| 人間による評価 | v0.19がTTS Spaces Arenaで1位 |
| 出力 | 24kHz音声 |
| 音声 | 公開54音声、Local TTSでは英語28音声 |
| ライセンス | Apache 2.0 |
| Local TTSでの役割 | アメリカ英語・イギリス英語カタログ |
弱点は対応範囲です。Kokoroの公開版は8言語に対応しますが、公式の音声カタログ自身が、英語以外の品質は学習データ量に左右されると注記しています。英語は抜群、それ以外は手薄というスペシャリストです。
ベンチマークが示すSupertonic 3の実力
2026年4月29日にSupertoneが公開したSupertonic 3は、正反対の方向、つまり対応範囲の広さと効率で評価されています。公式リポジトリはMinimax-MLS-testベンチマークでの読み上げ精度を公表しており、約9,900万パラメータのこのモデルを、VoxCPM2、OmniVoice、Qwen3-TTSといったはるかに大きなオープンTTSと比較しています。
このサイトで使っている11言語について、Supertoneが公表した誤り率は次のとおりです(低いほど優秀。*は文字誤り率、それ以外は単語誤り率)。
| 言語 | VoxCPM2 | OmniVoice | Qwen3-TTS | Supertonic 3 |
|---|---|---|---|---|
| 英語 | 2.11 | 2.02 | 2.25 | 2.06 |
| 韓国語* | 4.70 | 3.22 | 4.07 | 3.26 |
| 日本語* | 3.35 | 3.81 | 3.67 | 4.61 |
| ドイツ語 | 0.85 | 0.96 | 0.52 | 0.86 |
| フランス語 | 4.41 | 4.74 | 3.82 | 4.89 |
| スペイン語 | 1.34 | 0.99 | 0.75 | 1.13 |
| ポルトガル語 | 1.74 | 1.40 | 1.21 | 2.48 |
| イタリア語 | 1.74 | 1.29 | 1.40 | 1.75 |
| オランダ語 | 0.84 | 0.77 | — | 1.47 |
| ポーランド語 | 1.30 | 0.64 | — | 1.63 |
| トルコ語 | 0.88 | 2.18 | — | 1.00 |
Supertonic 3がすべての行で1位というわけではなく、Supertoneもそうは主張していません。公式の結論はもっと実用的です。数倍の規模のモデルと十分競争できる誤り率の範囲を31言語にわたって保ちながら、GPUなしで動く小ささを維持している、という点です。
際立つのは速度の数字です。Supertoneは、最新のiPhoneよりはるかに非力なハードウェアでSupertonic 3を動かして見せています。機内モードのOnyx Boox Go 6電子書籍リーダーで平均RTF 0.3倍、つまり電子書籍リーダー上で実時間の約3倍の速さで動作し、Raspberry Piでもリアルタイム合成を実現しました。公式のランタイム比較では、NVIDIA A100サーバーGPUで測定された大型モデルと比べても、普通のCPU上で高速に動き、メモリ使用量が大幅に少ないことが示されています。

出典:Supertone公式のランタイム比較チャート。図は変更せず掲載しています。
| 項目 | Supertonic 3 |
|---|---|
| パラメータ | 約9,900万 |
| 読み上げ精度 | はるかに大きなモデルと競合するWER/CER |
| 実証された速度 | 電子書籍リーダーでRTF 0.3倍、Raspberry Piでリアルタイム |
| 出力 | 44.1kHz音声 |
| 対応言語 | 31言語 |
| ライセンス | OpenRAIL-M |
| Local TTSでの役割 | 31言語の多言語音声 |
判断の決め手になった直接対決
最も直接的な比較は、第三者による独立ベンチマークです。GPUなしの控えめな4コアCPUという、AIサーバーよりスマートフォンに近い条件で両モデルを動かしました。重要な結果は2つです。
- 速度: Supertonic 3は標準品質設定でRTF 0.313、実時間の約3.2倍の速さで合成しました。一方のKokoro-82MはRTF 0.469〜0.509、およそ実時間の2倍でした。小さなCPU上でもどちらも実時間より速く、余裕が大きいのはSupertonicです。
- 自然さ: 同じテストで、より人間らしいと判定されたのはKokoroの英語音声でした。抑揚が自然だったのに対し、Supertonicの最速設定は平坦に聞こえたと報告されています。
つまり、どちらのモデルにも利害関係のない第三者が、公式の数字が指すのと同じ結論に達したのです。英語の自然さはKokoro、速度と対応範囲はSupertonic 3。 1つだけ選ぶなら、何かをあきらめるしかありません。Local TTSは「選ばない」ことを選びました。
Local TTSが2つのモデルをつなぐ理由
Local TTSの中では、2つのエンジンが1つのリーダーの背後で動いています。音声リストのすべての声はどちらかのモデルに属し、声を選ぶとアプリが自動的に適切なエンジンへ振り分けます。再生ボタンも、ハイライトも、速度調整も、オフラインで動く保証も共通です。
英語はKokoro-82Mへ
理由は人間の評価結果です。リスナーが英語で8,200万パラメータのモデルを10億パラメータ級より上位に選び続けるなら、英語のオーディオブック、記事、PDFはそのモデルで読むべきです。Local TTSはKokoroのアメリカ英語・イギリス英語28音声をすべて同梱し、Appleシリコン向けに調整したCore MLパイプラインで実行します。この経路が単語ハイライトを支える単語タイミングを提供し、バックグラウンド再生中も合成を続けます。
多言語はSupertonic 3へ
理由は対応範囲と効率です。同梱されたSupertonic 3モデル1つで、韓国語、日本語、ドイツ語、フランス語、スペイン語など31言語を44.1kHzで読み上げ、誤り率もはるかに大きなシステムと競合します。CPU優先の設計のおかげで、バッテリー駆動でもバックグラウンド再生や長文読み上げが実用的です。10種類のプリセットスタイル(F1〜F5、M1〜M5)はそれぞれ全31言語を読めるため、途中で言語が切り替わる文書でも声は一貫します。
併用によって避けられたもの
- 英語専用アプリ。 Kokoroだけでは、残り30言語に有力な声がなくなります。
- 平坦になりがちな英語音声。 Supertonicだけでは、アリーナで勝った英語の自然さと28音声の英語カタログを手放すことになります。
- クラウドへの切り替え。 どちらのモデルも同梱できる小ささなので、「サーバー上のもっと良いモデル」のために文章がデバイスの外へ出ることはありません。
この複合設計には、アプリサイズと開発の複雑さというコストがあります。それでも良い取引だと考えています。上のベンチマークが、事実上その設計の仕様書だからです。
App StoreからLocal TTSを無料でダウンロードして、自分の文章で両エンジンを聴き比べてみてください。無料版には、Kokoroの英語3音声とSupertonic 3の多言語音声1種類が含まれています。
この数字を正しく読むために
ベンチマークは判断の材料であって、議論の終わりではありません。4つの注意点があります。
- 公開元の数値はiPhoneで測定されたものではありません。 アリーナの順位、WERの表、RTFの数値は、それぞれの公開元のハードウェアによるものです。Local TTSでの実際の性能は端末、文章、設定に左右されます。ただし、モデル間の優劣の関係は、確認できる範囲の独立CPUテストで一貫しています。
- アリーナの順位は変わります。 Kokoroの1位はv0.19の評価期間における公式記録であり、アリーナには毎月新しいモデルが参入します。この結果が長期的に証明したのは、小型モデルでもブラインドの英語聴取テストに勝てるという事実です。
- WER/CERは機械の文字起こしで採点されます。 単語を正しく話せたかを測るもので、朗読として美しいかは測りません。それを測るのが人間によるアリーナです。だからこそ、2つの指標は合わせて読む価値があります。
- 速度設定は品質と引き換えです。 Supertonicの最速設定では自然さが下がります。Local TTSが使うのは、見出し向きの最速設定ではなくバランス設定です。
よくある質問
Local TTSは本当に両方のモデルをデバイス上で動かしていますか?
はい。Kokoro-82MとSupertonic 3はどちらもアプリに同梱されています。テキスト、文書、生成音声はiPhoneまたはiPad上で処理され、音声サーバーはありません。
実際にはどちらのモデルの声を聞くことになりますか?
選んだ声で決まります。アメリカ英語・イギリス英語の28音声はKokoro-82M、多言語スタイル10種類(F1〜F5、M1〜M5)はSupertonic 3です。ノートごとにいつでも切り替えられます。
VoxCPM2やQwen3-TTSのような大型のベンチマーク上位モデルを使わないのはなぜですか?
それらのシステムは数倍の規模があり、サーバーGPUで測定されています。Local TTSはスマートフォン上でオフライン動作するモデルを前提に作られており、その制約の中では、この2つが私たちの知る限り最も強力な公開済みの組み合わせです。
KokoroとSupertonicはどちらが速いですか?
同じ小型CPU上の独立テストでは、Supertonic 3が実時間の約3倍、Kokoroが約2倍と測定されました。どちらもLocal TTSでの連続読み上げには十分な速さです。
2つのエンジンは音が違いますか?
はい、意図的に違います。Kokoroの声は個性のある英語話者、Supertonicのスタイルは一貫した多言語ナレーターです。無料版に両エンジンが含まれるので、自分の文章でいくつか試聴してみてください。
インターネット接続は必要ですか?
いいえ。どちらのモデルもオフラインで音声を生成します。機内モードで試すのが、一番わかりやすい確認方法です。
ベンチマークを自分の耳で確かめる
数字は設計を説明し、耳がそれを裏づけます。英語の記事を貼り付けてKokoroの声で聴き、続けて韓国語、ドイツ語、スペイン語の段落を貼り付ければ、Supertonic 3が引き継ぎます。同じアプリ、同じプライバシー、クラウドは介在しません。
Local TTSをApp Storeから無料でダウンロードして、モデルを1つではなく2つ積んだ理由を聴いてみてください。
各エンジンの詳細は、Kokoro-82MガイドとSupertonic 3ガイドをご覧ください。
